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私の父のことで相談があります。
父は、25年ほど前に家を出たまま、その後連絡もなく、
ずっとどこにいるかわかりませんでした。

先日、XYZ債権回収株式会社という、
聞いたことがない会社から手紙がきました。

その内容は、1年前に父が亡くなり、
父に200万円お金を貸しているから、
相続人である私たちに返して欲しい、
というものでした。

手紙は私と妹と母の3人のところに届きました。
私たちはこんな手紙が届いて、とても不安です。
友人に相談したら、借金も相続するし、
3ヶ月たつと相続放棄ができないから、
払わなければいけないのでは、とのこと。

私たちは父の借金を、本当に払わなければいけないのでしょうか?

 
この事例のポイントを先に見る
 

借金が多いときは相続放棄

家族が多額の借金を抱えたまま亡くなられて、
自分が相続人になることがあります。

借金も相続するのでしょうか?

借金も相続します。
亡くなった方が、多額の借金をのこしたときは、
どうするか?

そのときは、相続放棄を検討した方がいいと思います。
相続放棄は、家庭裁判所に申立をします。

相続放棄が認められると、
亡くなった方の借金(マイナスの財産)を負わなくてすみます。

ただし、不動産や預貯金などのプラスの財産も
引き継げなくなりますので、その点は注意してください。

預貯金の口座からお金をおろして、
そのお金を使った後に、借金は負いたくないから、
相続放棄の手続をしようとしても、
それは認められないと思った方がいいでしょう。

また、借金がある場合、税金の滞納もあることが多いです。

この税金の滞納も相続の対象となります。

特に国民健康保険税の滞納があると、
数十万円から100万円を超えることもあります。

個人事業をやられていた場合は、
所得税や消費税などの滞納にも注意してください。

前の事例でも書きましたが、保証人になっていた時も、
問題になる時があります。
借り主がちゃんと返していればいいのですが、
返済が滞ると保証人に請求が来ます。

この保証債務も相続されます。
しかも保証人になっているかどうかは家族がわからないことも多い。
いろんな意味で、
人の保証人になる時は慎重にならなければいけませんね。
 

3ヶ月を過ぎたら相続放棄できない?

多くの借金を残して亡くなった方と一緒に暮らしていた場合は、
相続放棄の手続きをとるのに3ヶ月あれば十分でしょう。

では、事例のように長い間親交がなく、
生きているか死んでいるかわからなかった場合はどうなるのでしょうか?

法律はよくしたもので、このようなケースを想定しています。

相続放棄は、
「亡くなってから」3ヶ月以内ではなく、
「自分が相続人になったことを知ってから」3ヶ月以内なのです。

つまり、今回のケースではXYZ債権回収株式会社から
手紙をもらうまでは、お父さんの相続のことは知らなかった。

手紙をもらって、お父さんの死を知ったのですから、
手紙をもらってから3ヶ月以内であれば、相続放棄はできるでしょう。
ですから、借金の心配もしなくてもよいと思います。
 

相続放棄をするとどうなるか?

相続放棄した人には何も起きません。
金融機関や税務署から請求が来ても、
相続放棄したことの、裁判所からの書類のコピーを出せば、
それ以降、請求はピタリとやみます。

しかし、実務の現場では、
相続放棄は、それだけで終わらないのです。

なぜでしょうか?

亡くなった方の子供と配偶者が相続放棄の手続きをします。
子供と配偶者は相続人でなります。

そうすると、子供がいなかったことになります。

その場合、亡くなった方の親が相続人になります。
親ももちろん借金を負いたくないですから、
親も相続放棄の手続きをします。

そうすると、親もいないことになりますから、
次に、亡くなった方の兄弟が相続人になります。

もちろん兄弟も借金を負いたくないですから、
兄弟全員も相続放棄をします。

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このように、借金がたくさんあるために、
相続放棄をする場合、
3段階にわたって相続放棄をすることになります。

ちなみに、相続放棄の手続きは1ヶ月くらいかかることもあります。

そうすると3ヶ月以内に全員が相続放棄できるだろうか?
という疑問を持たれるかもしれません。

でも大丈夫です。
なぜなら、親にとって相続放棄ができる3ヶ月は、
子供の相続放棄が終わってから
(相続放棄をしたことを知ってから)スタートするからです。

同様に、兄弟の3ヶ月も、
親の相続放棄の手続きが終わってから
(相続放棄をしたことを知ってから)スタートします。

ですから、3ヶ月が間に合わなくなるのではという心配はしなくても大丈夫です。
 

どちらが多いかわからないときは「限定承認」

預貯金や不動産などプラスの財産が多ければ、
マイナスの財産である借金が多少あっても相続放棄せずに、
遺産から借金を返した方がいい場合もあります。

では、プラスの財産とマイナスの財産、
どちらが多いかわからない場合は、どうしたらいいのでしょうか?

この場合は、「限定承認」という手続があります。

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限定承認は、2とおりのケースがあります。

1 プラスの財産がマイナスの財産より多いとき
(図の左側)

このときは、プラスの財産から払えるだけ払って、
残りが出たらその分はもらえます。
相続人で分ける(遺産分割協議)ことになります。
 
 

2 プラスの財産よりマイナスの財産が多いとき
(図の右側)

このときは、プラスの財産で払えるだけ払って、
残ったマイナスの財産の分は払わなくてすみ見ます。
 
 

このように、どちらが多いかわからないときは、
相続の限定承認という方法があります。

しかし、この手続はとても複雑な手続なため、
自分でやろうとせず、
司法書士や弁護士などの専門家に相談した方がいいと思います。

この限定承認という手続きも、
自分が相続人なったことを知ってから3ヶ月以内にします。
さらに、相続人全員でしなければいけないので、
けっこう大変ですね。